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ニューカッスル監督 エディー・ハウとは

2021年11月30日、ホームのセント・ジェームズ・パークでノリッジと引き分けたニューキャッスルは、プレミアリーグのシーズン開幕以来、実に14試合勝ち星がない状態となった。


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当然のように降格圏で、最下位となり、安全圏まで6ポイント差となっており、深刻な状況だった。

プレミアリーグの歴史の中で、ここまで勝利が無いチームがリーグに残留したことはなかった。

まわりから見ても、もはやニューカッスルの行き先は明らかに見えた。

ところがシーズンを終わるとニューカッスルは11位で終了し、一時は、トップハーフフィニッシュを狙うかのような位置にいた。

この劇的な変化はなぜおこったのだろうか?

誰もが口を揃える決定的な要因が、エディー・ハウである。

エディー・ハウがボーンマスの監督であったことを知っている人は多いと思うが、彼がどんな来歴を持つか知っている人は少ないかもしれない。

エディー・ハウの監督経歴

就任退任試合勝率
ボーンマス2008年12月31日2011年1月16日10251183350%
バーンリー2011年1月16日2012年10月12日8734193439.08%
ボーンマス2012年10月12日2020年8月1日3561437713640.17%

ハウは現在44歳で、19/20シーズンまでボーンマスの監督をしており、そのシーズンに退任するまで、当時イングランドで最も在任期間が長い監督でもあった。元々、2008年に当時リーグ2(イングランド4部)にいたボーンマスの監督に当時最年少の31歳で就任し、クラブの財政問題で−17ポイントのペナルティを課せられ、フットボールリーグからの降格の危機(日本でいえばJリーグからの降格のようなもの)にあったボーンマスを率い、とてつもない逆風の中、そのシーズン、チームを残留に導いた。その上、次のシーズンにはリーグ1への昇格を実現させ、一時期バーンリーの監督をしていたこともあったが、再びボーンマスに復帰し、攻撃的なパスサッカーを駆使し、最終的にボーンマスをプレミアリーグまで導いた。その攻撃的スタイルををプレミアリーグの強豪相手でも崩さず、少ないリソースでもビッククラブを苦しめるサッカーを展開した、ボーンマスにとってはレジェントともいえる監督である。

ハウは、19/20シーズン、ボーンマスにけが人が多発した影響もあり、プレミアリーグから降格した責任をとって監督を退任しており、それ以来フリーだった。

そのエディー・ハウが10月に解任されたスティーブ・ブルースの後任としてニューカッスルの監督に就任した。

監督就任退任
エディ・ハウ2021年11月08日
スティーヴ・ブルース 2019年07年17日2021年10月20日
ラファエル・ベニテス2016年03年11日2019年06月24日
スティーブ・マクラーレン2015年06年10日2016年03月11日
ジョン・カーヴァー(英語版) (監督代行)2015年01月01日2015年06月09日
アラン・パーデュー 09.12.2010 - 12.20142010年12月9日2014年12月

そこから大逆転劇が始まるのだが、その過程に関して、The AthleticやBBCが詳細な記事を載せている。

今回はそれらの記事を参考にエディー・ハウの復活劇を紹介していきたい。

もちろん、細かい戦術や移籍市場への投資が、その復活を支えたことも事実だが、それらはエディー・ハウが成し遂げた事の本質ではない。

「団結」

新しくも、面白みも、斬新さもない言葉だが、これこそがエディー・ハウが成し遂げた奇跡の根幹であった。

※記事中の細かい数字は、シーズン途中のものも含まれます。

就任前後

ニューカッスルは、10月に当時監督であったスティーブ・ブルースを解任した後、その後任探しに難航していた。

じつは、エディー・ハウは第一候補の監督ではなかった。サウジアラビアの王室と関連したグループがニューカッスルを買収したことで、予算は潤沢になり、ウナイ・エメリなど世界的に名の知れた監督の引き抜きが連日報じられていた。

また、ハウは前述のように強豪相手でも自分たちのスタイルを崩さない攻撃的なサッカーで知られていたが、当時ボロボロだったニューカッスルのディフェンスを再建するのにふさわしいのか疑問の声もあったという。

結局ハウはニューカッスルの監督となるが、11月8日に就任した時、ニューカッスルは11ゲームを終わって19位で、安全圏まで5ポイント差の降格圏にいた。

エディー・ハウ就任直後の順位表

順位チーム勝点試合
1チェルシー261182123
2マンチェスターC231172216
3ウェストハム231172210
4リバプール221164120
5アーセナル20116230
6マンチェスターU17115242
7ブライトン17114520
8ウルブス1611515-1
9トッテナム1611515-7
10クリスタル・パレス15113621
11エバートン15114340
12レスター1511434-2
13サウサンプトン1411353-2
14ブレントフォード1211335-1
15リーズ1111254-7
16アストン・ヴィラ1011317-6
17ワトフォード1011317-7
18バーンリー811155-6
19ニューカッスル511056-12
20ノリッジ511128-21

その後の大転換は前述の通りだが、4月末の時点で23試合で11勝をあげ、勝点も38を積み上げた。この時期の成績だけみれば、プレミアリーグのトップ5につぐ成績である。

シーズン終了後の順位表

順位チーム勝点試合
1マンチェスター・シティ9338296373
2リヴァプール9238288268
3チェルシー74382111643
4トテナム・ホットスパー71382251129
5アーセナル69382231313
6マンチェスター・ユナイテッド58381610120
7ウェストハム・ユナイテッド5638168149
8レスター・シティ52381410143
9ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオン5138121511-2
10ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ513815617-5
11ニューカッスル・ユナイテッド4938131015-18
12クリスタル・パレス48381115124
13ブレントフォード463813718-8
14アストン・ヴィラ453813619-2
15サウザンプトン403891316-24
16エヴァートン393811621-23
17リーズ・ユナイテッド383891118-37
18バーンリーFC353871417-19
19ワトフォード23386527-43
20ノーウィッチ・シティ22385726-61

2022年に限ってみると、おなじく4月末時点で、10勝32ポイントをあげており、これはリバプールに次ぐ成績となっており、エディー・ハウが今年のmanager of the yearの有力候補であるともいわれるまでになった。

ハウの就任前、ニューカッスルのオーナー達は、彼とビデオ面接をしていた。(イングランドに限らずだろうが、イングランドのプロリーグでは監督を選ぶ際、一般の就職試験のように、クラブは復数の候補と面接をして、監督を選定する)

その時、彼はすでに、チームの分析をしていたようで、自分がチームのどこを、どのように改善していけるのか、1月の移籍市場でどういった補強が必要なのかなどに関して、詳細なプレゼンをオーナー達にして、彼らの心を動かしたという。

ボーンマス時代、攻撃的であるがディフェンスの脆さを指摘される事が多かったが、フリーとなった期間、攻撃的な思想は残しつつ、彼はより現実的なアプローチを身につけていった。

ニューカッスルの監督になるにあたっても、彼は元々もっていた思想をそのまま適用するのではなく、異なるアプローチをとることにした。そのままでは、うまく行かないとわかっていたからである。

選手たちとの最初のセッションで、エディー・ハウは改善のためのプランを選手達に説明したが、ミッドフィルダーのロングスタッフは、ハウのことを、落ち着いた性格で、自分のやり方に確固たる信念をもっており、スティーブ・ブルースの前に監督であったラファエル・ベニテスに似たものを感じたと言っている。

最初の仕事

ハウの最初の仕事は、ディフェンスの修正であった。

前任の暫定監督であるグレアム・ジョーンズは、3試合の就任期間の中で、ウィングバックをつかった3バックのフォーメーションをつかっていた。当初ハウは自身がボーンマス時代もつかっていた4-4-1-1を導入したが、12月4日の1-0で勝利したバーンリー戦以外では、目立った成果を得られなかった。

エディー・ハウ就任直前の3バックフォーメーション

前任のスティーブ・ブルースは、今のニューカッスルに4バックは適さないと考えており、ハウはその意見に同調してはいなかったが、4バックのバックラインにサポートが必要なのは認識することになる。

ニューカッスルの標準フォーメーション

12月に4-0でレスターに破れた後は、たまたま元々FWであったジョエリントンを中盤に配置した4-3-3が標準のフォーメーションになっていく。

試合を経るにつれて、ブルースの元では先発だったカール・ダーロウ、ジャマル・ラセレス、マット・リッチー、シアラン・クラークが先発から外れていった。

ハウは、より運動能力と技術に優れた選手を採用し、1月の移籍市場でもそういった選手の獲得に動いていった。

すぐに効果がでたわけではなく、ノリッジ戦の引き分け、バーンリー戦での1-0での勝利以降、12月は3戦して、得点1、失点11という状況で、クリスマスのタイミングで19位に沈んだままだった。

ニューカッスルにとって幸いだったのは、コロナの影響で、リーグ全体で試合の延期が続いており、この時点でニューカッスルは、安全圏まで3ポイントであり、チーム内でも、まだ可能性を感じることができた。この心理的な影響は大きかったという。

FAカップで、リーグ1のケンブリッジに破れた後も、会長のヤセル・ルマイヤンは、チームを叱責するのではなく、前向きなメッセージを伝え、ハウへの引き続きのサポートを確約していった。

内部関係者も、そんな状況でもハウは落ち着いていて、前向きに自分のなすべきことを進めていったと語っている。

そして、ついに実を結ぶ日がきた。

ハウによれば、1月22日に降格争いのライバルでもあるリーズに1-0で勝利したことが、重大な転換点だったという。この勝利で選手からもハウのやり方に前向きな声が聞かれるようになった。

ハウ自身、選手たちの信頼を得るには、勝利が必要なことを良く知っていたので、彼自身、この勝利で勇気づけられることになった。

当時、チームのトップスコアラーのカラム・ウィルソンがケガで離脱していたこともあり、ハウは、ディフェンスの安定に重きを置きながら、接戦での勝利を積み重ねていく。

硬いディフェンスで、相手チームに自分たちのゲームをさせないそのやり方は、相手チームの監督にも、「本当の実力」といわせるまでになる。

攻撃力に関しては、まだ課題も多かったが、守備は劇的に変化し、ボールを失った後に高いインテンシティで、ハイプレスをかけけていく。そのやり方は、対戦相手として難しいチームに成長していった。

守備時は、アラン・サン=マクシマンを除くすべての選手が守備に強く貢献することが求められた。

カウンターで圧倒的な変化を起こせるサン=マクシマンに、バーンリーから移籍してきたクリス・ウッドや左サイトのジョエリントン、マット・ターゲットらが守備をフォローする形をとった。

選手達によると、ハウの前は、ずっと守備的で、フォーメーションの形をしっかりまもっていたが、ハウは、高い位置でプレスをかけて、ボールを奪うように変えていて、それがチームにフィットしていったのだという。

2021年、プレミアリーグ記録となる失点数を記録したボロボロの守備は、15試合で13失点と平均1点を切るようになり、4月末までの11勝のうち7勝が1点差勝利で、クリーンシートは6試合もある。

複数失点をしたのも、5-1で破れたトッテナム戦以降は、5月のマンチェスター・シティ戦のみで、それ以外は、4月末の段階ではリバプール戦も含め、すべての試合で1点以上失点をしなかった。

ここ数シーズン、1試合ごとのxG(ゴール期待値)とxGA(被ゴール期待値)を比較すると、ほとんどすべての試合で、xGAが上回る状態が続いていたが、ついにxGが上にくるようになり、年明けから4月末でみると、得点が失点を上回る状況にもなった。

ゴールキーパーのマルティン・ドゥブラフカも、

「かっこのいい試合ばかりじゃないかもだけど、機能してるんだよ」

と手応えを語りつつ、監督に関しても

「彼がすべてだよ。彼の構想、彼の仕事に対する姿勢、それが大きかったんだ。」

「彼は、いつも最初にトレーニンググラウンドに入っているんだ。ピッチ上でもみんな彼の指示に従ってるよ。」

セットプレーの改善も見逃せない。

ハウは、セットプレーが、彼らに攻撃の貴重な切り口を与えてくれるものだと考え、その強化を行った。

「1%でもマージンが必要で、選手たちはそれを持っていると思うよ。」

その成果は数字にも現れている。

4月末時点で、28ゴールのうち、12ゴール(全体の43%)がセットプレーからのゴールである。逆に全31失点のうち、セットプレーからの失点は9ゴール(全体の29%)にとどまる。

この成果の理由として、ニューカッスルの人々が口を揃えていうのは、「激しさ」である。

1月の移籍でブライトンから移籍してきたDFのダン・バーンは、

「加入前に、残留をするために彼がどいういうことをしようとしているのかを聞いたんだけど、ハードワークがすべてで、それが成果に結びつくと選手達に信じさせる、ということだったんだ。彼はまさにそうしてきたし、それが機能してるんだよ。」

チームの雰囲気・メンタリティを変える

バーンは、移籍した当初、チーム内の雰囲気が前向きなことに驚いたという。

「降格争いがどんなものか知っていたから、チームの雰囲気は良くないと思っていたんだ。」

「でも、すぐに感じたんだけど、チームの雰囲気がよくて、選手たちはお互いのために仕事ができる環境だったんだ。」

ハウによって、選手たちは残留が可能であることの確信を持てたという。負けを恐れるメンタリティから、勝利が普通だと思えるようになっていった。

「監督は、僕たちが何をできるのかを示してくれて、僕たちは今それを信じられるんだよ」

とデブラフカも語っている。

「監督がゲームチェンジャーになったんだよ。」

1996-97シーズン以来始めて、ニューカッスルは、リーグ戦で3連勝を3回続けるまでになった。

繰り返しになるが、ニューカッスルは、開幕から14試合勝ち星がないチームだったにもかかわらずだ。

キャプテンのラッセルズも、「トレーニングや試合の中で、勝者のメンタリティがつくられていったんだ」と語る。ハウは、それがフレンドリマッチだろうが練習試合だろうが、勝利に強い執着をもっており、それを選手達にも強く望んでいった。

以前は、トレーニングでのパフェーマンスが悪いと、罰として、チームメイトにチョコレートを配るなどしていたが、ハウは発想を変えて、"失敗"ではなく、"成功"を評価するようにしていった。

FWのドワイト・ゲイルは、ハウのもとでは、今シーズン先発出場がない選手だが、その月でトレーニングでのパフォーマンスが最もよかった選手として、罰金から集められたお金で賞品が送られている。

ハウは、試合に出場できない選手へのケアも怠らない。MFのロングスタッフによると、

「もし出場できなくても、僕たちは前みたいに興味を失ったりしないんだ。みんな、監督のためにどんなことでもする気持ちになってるよ。」

という。

ハウが始めた習慣に、「ドレッシングルームでの勝利写真」というものがある。

元々、ボーンマスでハウがやっていたものだが、試合の勝利後に選手やスタッフをドレッシングルームに集めて、集合写真を撮るもので、元々内部で収めていたようだが、今ではファンにも愛されるものになっている。

フィジカルの変革・選手へのサポート

ハウのもとでおこなわれたのは、戦術や心理的な変革だけではない。彼のもとで、ニューカッスルは、フィジカルと運動能力に長けたチームに変貌していった。

ウィルソンやラッセルズも、自分たちのコンディションが、いかに改善したのかを語っている。トレーニングセッションも以前より、ずっと激しくなって、デブラフカによれば、2週間は適応するのに苦労していたという。

「選手たちに中には、ハウが来てからというもの、(疲れてしまって)8時には寝てしまうようになったものもいたよ。だけど、次第に選手達も適応していったんだ。」

ほとんどすべての選手のパフォーマンスが向上していき、次第にニューカッスルのパーフォマンスは後半になっても落ちなくなっていった。

元々典型的なFWと見られているジョエリントンを中盤で使うことになったのは、ノリッジ戦で、DFのクラークが退場になったためで、ある意味、偶然の産物であったが、その効果を見抜いて起用しつづけたのはハウの洞察によるものであった。

ジョエリントンも、元々パフォーマンスは向上していた中だったが、

「監督は、来る日も来る日も僕のことをサポートしてくれるんだ。とても大事なことだと思ってるよ。」

他のメンバーも同様で、以前は、多くの選手が、うまく成長ができていないと感じていた。

ハウは、選手1人1人とミーティングをもって、率直に彼らに自分の考えを伝えていった。結果、個々の選手の成長が、全体の成長につながっていった。ロングスタッフは次のようにいう。

「もっと学んだり、成長したりすることが必要だったけど、以前はそれができてなかったんだよ。だけど今は、成長できていると感じるんだ」

努力と詳細へのこだわりが成功の土台

ハウにとって努力と詳細へのこだわりこそが、すべての土台になっている。選手達は、トレーニングセッションで繰り返しトレーニングされた明確な指示のもと、ピッチに送り出されている。

「みんなが想像できないくらいたくさんの情報が毎日渡されているんだよ。」とデブラフカは言っている。

「僕らは、すべてのことを分析するようになり、今にしてみると、以前は何も見れていなかったかのようだよ。監督がみんなを改善させてるんだよ。」

マット・ターゲットも

「彼は、僕らの頭の中に何をすべきかを叩き込むんだ。それのおかげで、僕らはどこで、どうすればいいのかが、はっきり理解できているんだよ」

と述べている。

スティーブ・ブルースの時は、選手たちは、ピッチ上で「一人でいる」と感じて感じることが多かったが、今は、選手たちは、ハウがピッチの中で一緒にいるような感覚をもっているという。

仮に何かがうまくいかなくても、十分に準備がされているので、選手は何をすべきか、どのように対応すればいいのかがわかっている。うまくいったらいったいったで、計画どおり進んでいくことで、選手たちは自信を深めていった。

エディー・ハウの現実的なアプローチ

前述のようにハウは、攻撃のシステムに急激な変更をして選手たちを混乱させるのではなく、まずはディフェンスの安定に力を注いだ。

「堅実な守備」は練習によって強化しやすいエリアでもある。

ダン・バーンによれば、

「僕たちは同じ守備のアクションを毎日繰り返してるんだ。多分、今僕らがやっているサッカーは、監督がやりたいたいスタイルではないんだと思うけど、監督は時間がないこと、僕たちをより強固にしていかなければいけないことが、わかってたんだよ」

ハウ自身も、

「今シーズンの目的は、スタイルを気をすることじゃないんんだよ」

と語っている。

チーム関係者は、

「エディーを選んだのは、大正解だったね。」

「彼の基本原理は、詳細へのこだわりで、信じられないくらいそこに時間をかけていくんだ」

責任者のいない移籍市場

1月の移籍市場の間、スポーツダイレクター(クラブ運営の責任者)が決まっていなかったため、エディ・ハウが実質の移籍担当者のようになり、獲得の可能性がある選手のビデオの確認、関係各所への確認の連絡などに追われることになった。

交渉自体は、クラブ上層部がおこなったが、プレミアリーグでの経験とリーダーシップを兼ね備えたハウが、移籍にまつわる現場作業を取り仕切ることになった。

彼らの最初の獲得選手は、前年度ラ・リーガーチャンピオンだったアトレティコからやってきたキーラン・トリッピアーだった。イングランド代表経験もあり、代表で活躍したこともあるトリッピアーの加入は、ニューカッスルのレベルをあげ、他の選手が19位に沈むニューカッスルにやって来やすくなることが期待された。

降格争いのライバルからクリス・ウッドを2,500万ポンドという(ウッドの実績を考えたら)驚くような大金を費やして獲得したが、ハウに前線の核となる選手を提供するという重要な目的があり、必要な獲得と考えられていたし、残留すれば、十分な価値をもっていると見られていた。

会長の承認のもと、ダン・バーンやマット・ターゲット、ブルーノ・ギマランイスを獲得したが、ハウが希望した、ジェシー・リンガードやウーゴ・エキティケなど、さらなるアタッカーの獲得は実現しなかった。(エキティケは、夏の移籍で獲得が近い)

元々、1月の移籍市場では、4〜5,000万ポンド程度の支出で、2、3人の獲得を想定していたが、結果、ニューカッスルは9,300万ポンドを支出し、5人の選手を獲得したが、これはヨーロッパのリーグで最高額となった。

ターゲットやバーン、トリッピアーはディフェンスを安定させ、チームに落ち着きを取り戻させた。ウッドも、2ゴールにとどまっているが。ハウは、前線での献身的な動きを「際立っている」と称賛している。

ギマラインスは、ジョエリントン、シェルビー、ウィロックの3人がうまく機能している中で加入しており、周りの期待も大きかったが、ハウは急がず、時間をかけて彼をチームに融合させていき、結果、4月末までで、ギマラインスは7試合に先発し、5ゴールを上げる活躍をしている。他の選手は、「即効性」を期待されて加入しているが、現在24歳のギマラインスは、ニューカッスルの未来を支える存在として期待されている。

その一方で、「すべて金で解決している」という見方も正しくない。

彼らはエバートンが多額の補強資金を消費していきながら、年々順位を落としてきていることを意識しながら、同じ轍を踏まないように、選手達の適正をしっかりと見極めてから獲得を進めていった。

一見良さそうに見える選手に、すぐに手をだすのではなく、エディー・ハウは選手のキャラクターを特に重視しながら慎重に獲得を進めていった。

結局何が一番大事なのか

英語で、「チョークとチーズ」という言葉がある。見た目は似ているが本質的に異なるものをいう喩えである。

ハウの加入前後のチームの違いを選手達はそう評しているという。

ハウと彼のスタッフは、1日中トレーンググラウンドで仕事をしているため、サインを求めるファンも彼を捕まえるために朝5:30に訪れるという。以前はただ選手が着替える場所であった施設の内部も、選手が成長するための環境への変貌し、多くの選手達が、以前よりも多くの時間を、そこで過ごすようになっていった。

施設の内部にすら、細かいところに気を配っている。

施設内のカーペットや壁も明るくして、選手達が来やすい環境にしている。
その日のタイムテーブルがスクリーンに投影されており、それはいつも違うものになっている。

選手達のフィットネス改善のためのコンディショニングや食事も変わっていった。

ハウは優れたモチベーターでもある。

TV画面に次の試合までのカウントダウントンや直近の試合で印象的だった数字を表示しているという。

様々なメッセージが壁に飾られており、

「絶え間なく改善していく」
「トレーニグで汗をかけば、戦闘で流す血は少なくすむ」
「成功を所有することはできない。ただ借りるだけだ。毎日賃料を払いつづけなければならない」

などのメッセージが壁に飾られている。また、

「我々のアイデンティティ」

として、

「大きいからといって小さいことができないことはない」
「ファンへの感謝を示そう」

など、いくつかの原則が食堂に掲げられているが、試合や練習、選手からの意見でアップデートされているという。

アップデートで変更される可能性があるとはいえ、元々ニューカッスルには明確なアイデンティティがなかったため、これらは重要なコンセプトとしてチームに受け入れられている。

「タイムラインセッション」もチームにとって非常に重要なものになっている。選手に紙を渡し、パートナーや子どもたちの名前を書いてもらい、2週間ごとに、選手達が、自分達の人生についてチームメートに語る時間が作られている。そこでは話を聞いたチームメイトが質問することも求めらている。

ベテランのジョンジョ・シェルヴィーも、

「こんな監督、いままで会ったことなかったよ」

「彼は、すべての人のすべてを知りたがるんだ」

と語り、ダン・バーンも、

「監督が導入した細かいことが"本当の連帯"を作り出してるんだ」

と評価する。

ある代理人は、

「最大の変化は、彼がトーレーニンググランドを本当の意味で、プロフェッショナルな環境にしたことだよ。ハウは選手達自身が、そこで時間をすごし、共に成長していきたいと思うようにさせていったんだ。」

という。

ハウは、選手達を動機づける様々な言葉をもっているが、彼にとって最も重要なのは「団結」だという。

「それはすべてのことを意味するんだ」

ハウは、ニューカッスルが成功するためには調和が必要なことを理解し、クラブの中に絆を作ろうとしてきた。

アウェイ戦で、泊りがけになるときは、選手達は一緒に過ごすように勧められている。食事中にも、正式なもの、非公式なもの含めて分析のセッションが行われている。

サウサンプトンとの試合とチェルシーとの試合の間、ロンドンでトレーニングしている時は、選手達は一緒に映画に行っていたという。

1月のジッダや3月のドバイで行われたキャンプは、トレーニングと同じくらい連帯を強めることを目的に行われた。そこでは夜、一緒にでかけたり、カートやアーチェリー、砂漠での観光なども行われていた。選手達は、リラックスした環境で連帯を深めていった。

ハウによれば、

「よい状態でサウジから戻ってきて、団結してプレミアリーグに残るために戦う準備ができたんだ。」

オーナー側も選手達と積極的にコミュニケーションをとっており、前オーナーのマイク・アシュリーの時代とは隔絶の感がある。

話は、選手やスタッフ、オーナなどクラブ内部だけで終わらない。ハウは、ファンこそ、クラブのもっとも重要な土台であると信じており、ホームでの試合内容を非常に重視しており、試合の日のホームの雰囲気になれるため、トレーニングをセント・ジェームズ・パークで行うこともある。

4月末時点で、ハウのもとで行われた12試合のホームゲームで、ニューカッスルは、7勝1敗で、その1敗もリーグチャンピオンのマンチェスター・シティとの対戦で喫したものである。

ニューカッスルは、2004年以来のホーム6連勝を記録した。その前は、全24試合でわずか4勝だったチームがである。

ダン・バーンも、

「セント・ジェームズ・パークの試合前の歓声をきくと、まるでチャンピオンズリーグの試合にでているような気分になるよ。ファンと選手達がお互い近い存在になって、もう「我々」と「彼ら」というものがないんだ。みんなで同じ方向を向いているんだ。」

とクラブ全体の団結を感じている。オーナーグループもサポーターグループと会っており、オーナー達が試合前に旗を振る風景もみられている。

ハウが行った数々の変革、個々の選手の再生、1月の移籍で加わった選手達、練習場の刷新など、ニューカッスルの劇的な変貌は、クラブ内すべての人達の中の団結によるものが大きい。

「我々にとって最も重要なことは団結していることなんだ。クラブにいるみんなが、選手もスタッフもファンも、同じ方向に進んでいるんだ。これが大きな違いなんだ。」

「我々は今団結しているんだ。」

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プレミリーグ順位表

順位チーム名勝点得点失点
1マンチェスターC93382963992673
2リバプール92382882942668
3チェルシー743821116763343
4トッテナム713822511694029
5アーセナル693822313614813
6マンチェスターU583816101257570
7ウェストハム56381681460519
8レスター523814101462593
9ブライトン51381215114244-2
10ウルブス5138156173843-5
11ニューカッスル49381310154462-18
12クリスタル・パレス483811151250464
13ブレントフォード4638137184856-8
14アストン・ヴィラ4538136195254-2
15サウサンプトン4038913164367-24
16エバートン3938116214366-23
17リーズ3838911184279-37
18バーンリー3538714173453-19
19ワトフォード233865273477-43
20ノリッジ223857262384-61