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コンテの代名詞、3-4-3フォーメーションで変わるトッテナム

21/22シーズンに向け、トッテナム・ホットスパー[Tottenham Hotspur]が、復数の新監督候補との交渉がまとまらない中、「最後の選択肢」ともいえるかたちで選択したのが、ヌーノ・エスピーリト・サント監督であった。

スパーズサポーターにおける新監督への薄い期待の中、リーグが開幕したが、開幕戦にシティに勝利するなど出だしは良かったが、次第に悲惨ともいえる状況となり、10試合を経過した時点で9位に沈み、UEFAチャンピオンズリーグ出場権も絶望ともいえる状況になり、開幕から3ヶ月で早々にヌノを解任することになった。その後に就任したアントニオ・コンテは、自身の代名詞ともいえるフォーメーション、3-4-3をスパーズに導入し、チームに大きな変革をもたらした。

スパーズのパフォーマンス改善は数字でも明らかで、ヌノが監督だったころ、ハリー・ケインの移籍騒動で揺れるチーム事情があったとはいえ、10試合を経過時点で、スパーズは9位で、ゲームあたり平均1.5ポイントしか勝点を獲得できていなかったが、コンテ就任後、同じ10試合を経過した時点で、獲得平均ポイントは、2.1ポイントに上昇し、平均ゴール数もヌノ時代の0.9点から1.7点と、倍近い数字となり、マンチェスター・ユナイテッドやアーセナルの失速もあるが、4月13日現在でUEFAチャンピオンズリーグへの自力出場が可能にまで回復した

今回は、そのアントニオ・コンテの代名詞、3-4-3フォーメーションが、スパーズでいかに機能しているのか詳解する。

トッテナム・ホットスパーの基本フォーメーション(スタメン)

トッテナムのフォーメーション
トッテナム基本フォーメーション

2022年4月時点でのレギュラーメンバー

ポジション背番号 名前国籍年齢身長前所属
GK1ウーゴ・ロリス
Hugo Lloris
フランス35188cmリヨン
右CB4クリスティアン・ロメロ
Cristian Romero
アルゼンチン23185cmアタランタ
中央CB15エリック・ダイアー
Eric Dier
イングランド28188cmスポルティング
左CB33ベン・デイヴィス
Ben Davies
ウェールズ28181cmスウォンジー・シティ
右WB12エメルソン・ロイヤル
Emerson Royal
ブラジル23181cmバルセロナ
右WB2マット・ドハーティ
Matt Doherty
アイルランド30182cmウォルヴァーハンプトン
左WB3セルヒオ・レギロン
Sergio Reguilón
スペイン25178cmセビージャ
MF5ピエール=エミール・ホイビュルク
Pierre-Emile Højbjerg
デンマーク26187cmサウサンプトン
MF30ロドリゴ・ベンタンクール
Rodrigo Bentancur
ウルグアイ24187cmユヴェントス
MF8ハリー・ウィンクス
Harry Winks
イングランド26178cm
左WG21デヤン・クルセフスキ
Dejan Kulusevski
スウェーデン21183cmレヴァークーゼン
右WG7ソン・フンミン
Son Heung-Min
韓国29188cmレスター・シティ
CF10ハリー・ケイン
Harry Kane
イングランド28172cm
左WG27ルーカス・モウラ
Lucas Moura
ブラジル29172cmパリ・サンジェルマン

トッテナムの3-4-3フォーメーションでのスタメンのフォワードは、ケイン、ソン・フンミン2人は不動の先発メンバーで、22年4月時点では、右ウィングは、クルセフスキが先発となっているが、以前はモウラが中心メンバーだった。中盤は、ホイビュルクが不動で、ベンタンクール加入前は、スキップが中心メンバーだったがケガで離脱している。ウィングバックは、右がエメルソンかドハーティのどちらかで、左がレギロンか、最近だとドハーティがコンバートされることが多い。3バックは、基本的に不動で、左がベン・デイビス、中央がエリック・ダイアー、右がクリスティアン・ロメロが務める。キーパーは、こちらも不動でウーゴ・ロリスが努めている。

攻撃の基本 - トッテナムの3-4-3フォーメーション

スパーズのビルドアップ時、元々コンテは、ポゼッションに固執する監督ではないため、必要に応じてロングボールも多用するが、ディフェンスラインに強いプレッシャーがない場合、キーパーのウーゴ・ロリスがディフェンスに回し、そこ攻撃を組み立てていく。ディフェンダーがボールを保持している時は、フォーメーションを保ちながら、ウイングバックが下がって、3バックからのパスの受け口となる(図1)。別のパターンとしてウイングバックが上がり、ウィングがハーフスペースに位置して、ウィングバックと近い位置を取る。この時、相手方のフルバックが早めにウィングにつめていこうとすると、3バックの中央に位置するダイアーが、高めにあがったウィングバックにむかってパスをちらしていく(図2)。

トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(ウィングバックが下がる時)
図1
トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(ウィングバックが上がる時)
図2

相手フルバックが動かない場合は、簡単に中盤2人パスを回すと、相手の激しいプレスで、潰される可能性が高いので、ソン・フンミンやクルセフスキ、モウラが下がってきて、ディフェンスラインからのパスの受け口のオプションをつくる(図3)。場合によっては、ケインがおりてきて受けることもある。

スパーズの場合、3バックにプレッシャーがかかった場合、ホイビュルクが積極的に動き、受け口して機能する。彼は、元々ポジションをあまり固定せず、上下左右、縦横無尽に動き回るのだが、、プレスがかかった場合、ディフェンスラインまで下がって、ボールを受けながら数的優位を確保していく。これらのアクションでスパーズは、前線からプレスするのが難しいチームとなった(図4)。

トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(ウィングが下がってボールを受ける)
図3
トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(MFが下がって4バックに)
図4

その際、元々左サイドバックが本職のベン・デイビスが、下がってきたホイビュルクを追い越していく(図5)ことも多い。そうすることで、相手チームも左サイドに人がよっていくため、逆サイトにスペースが作られるため、右ウィングバックにパスを供給していき、パスを受けた右ウィングバックと右ウィングでゲームをつくっていく(図6)。

トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(センターバックがウィングバックを追い越す)
図5
トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(逆サイドへのパス)
図6

逆サイドでも同様な動きがみられが、より守備的なロメロがいる右サイドよりも左サイドが攻撃の起点になることが多い。

前線では、ここ数シーズンでゲームメーカーとして覚醒しているハリー・ケインが、中盤に降りていき、ミッドフィルダーの数的不利をカバーしつつ、ボールを受ける(図 7)。

ソン・フンミンやデヤン・クルセフスキ、ルーカス・モウラの両ウィングが高い位置にいることで、ディフェンダーがケインを追いかけることを難しくしている。(仮に、ケインを追いかけていけば、大きなスペースと数的不利が発生する。)

ハリー・ケインがボールを受けた動きにあわせて、ソン・フンミン、クルセフスキ(モウラ)らの両ウィングがケインがつくった前線のスペーズに駆け込み、ケインからのボールを受けて決定機をつくっていく(図8)。

トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(前線でケインが下がってボールうける)
図7
トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(ウィングがケインの空いたスペースに走り込む)
図8

また、ハリー・ケインの動きは、彼が空けたスペースを両ウィングが狙うことも意図されているが、これもウイングバックが攻撃の幅を維持することで可能にしている。

また一方で、コンテ3-4-3では、ケインが前線に張る形もあり、この場合、ソン・フンミンとクルセフスキ、モウラの役割が分かれ、モウラがミッドフィールドに下がっていき、パスの受け口となる。ソンは中央に寄って、ケインに近づいていく。左サイドでは、ウィングバックが上がっていき、左センターバックのデイビズがサポートに入る。こうすることで、形態としては、ケインが中央に下りてきたときと似たような配置が形成される。

このようなウィングバックを含めた5枚の前線をつくることで、特に相手が4バックであった場合、マークを絞るのを難しくなり、その結果、対戦相手はラインをコンパクトに保とうとするが、今度は、両脇が開くことになり、ボールを受けたウィングバックが、前線の2人にめがけて、クロスを上げることができるようになる(図9)。

この場合は、ウィングバックにボールがあるとき、逆側のウィングが積極的に中央に入っていき、3番目の前線として、クロスに合わせる動きをとる。(図10)

トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(ウィングバックも含めて5トップに)
トッテナムのフォーメーション攻撃時の動き(逆サイドのウィングが走り込んでチャンスを増やす)

この時、中盤2枚は中央に控えて3バックと連携して、相手方のカウンターを阻止する役割を担う。

ディフェンスの基本 - トッテナムの3-4-3フォーメーション

相手が、自陣深くボールを持っている場合、スパーズは、前線ですぐにボールを奪取しようとせずに、どちらかというと受け身のアプローチで、3-4-3を保ちながら、ウイングバックは、下がり気味に位置する。

スパーズのミッドフィルダーは2枚で守られているため、3枚いることが多い相手中盤に対し、数的劣勢にならないため、ケイン、ソン・フンミン、クルセフスキの3トップが中央の近い位置にポジションを取り、相手の中盤へのボール供給を防ぐ役割を果たす。(図11)

相手チームは結果として、サイドにボールを供給するパターンが多くなるが、そこにはスパーズのウィングバックがプレッシャをかけていく。合わせて、全体としてボールがあるサイドに移動することで、引き続き中央へのボール供給を防いでいく。結果として中盤でのパスミスを誘いながら、ショートカウンターを狙ってていく。ボールを奪取できたら、中盤に降りてきているハリー・ケインにボールを集め、ケインがすばやくソン・フンミン、クルセフスキなどの両ウィングにパスを供給していく。(図12)

トッテナムのフォーメーション守備時の動き(3トップが中央へのバスを防ぐ)
トッテナムのフォーメーション守備時の動き(パスミスを誘いショートカウンターへ)

もし、相手方がボールを中盤の高い位置まで持ってきた場合、スパーズは全体が下がり、5-4-1を形成して、ディフェンダー間のスペーズを埋めていき、ゴール前への進出を防いでいく。

プレミアを席巻するコンテのスパーズの3-4-3フォーメーション

コンテの就任からしばらくたつと、3連敗の時期もあり、一時期はコンテの去就も取り沙汰されるような状況の陥ったが、3-4-3の練度が上がるにつれ、高いパフォーマンスを発揮するようになり、特にソン・フンミンとハリー・ケインのコンビネーションが戻ってきて、年明けからで見れば、リーグトップの得点力を誇り、前述のようにアーセナル、マンチェスター・ユナイテッドの失速も手伝って、絶望と思われたUEFAチャンピオンズリーグの出場圏も自力で獲得できる状況になってきた。

圧倒的な攻撃力を誇るコンテの3-4-3だが、19年に決勝にいって以来、UEFAチャンピオンズリーグには出場すらできてないスパーズに久しぶりの機会を与える原動力になるのだろうか?戦力でみればマンチェスター・シティやリバプール、マンチェスター・ユナイテッドに劣る中で、今季現時点で得点王争い2位のソン・フンミンも来年30歳になりその後釜や、引き続き来季のケインの引き止めも重大な問題となるだろう。

またタンギ・エンドンベレやジオバンニ・ロチェルソなどローン移籍先のチームで好調を維持しているメンバーをいかにチームに融合させるか?現在、メンバーが固定されがちで、劣勢の時のプランBが見えづらいなかで、ライアン・セセニョン、ステーフェン・ベルフワイン、ハリー・ウィンクス、ダビンソン・サンチェスなどのメンバーをいかに成長させ、戦術に適応させていくのかなど、問題が山積する中、来季優勝争いに食い込むことはできるだろうか?

プレミアリーグの上位チームを6強と言わるようになって久しいが、ここ数年はリバプールとマンチェスター・シティの2強支配、それを追いかけるチェルシー、その下のマンチェスター・ユナイテッド、トッテナム、アーセナルというような構造が固まりつつある中で、風穴を開ける存在としてスパーズの活躍が期待される。

トッテナム・ホットスパー 最新情報

プレミアリーグ得点王争い(4月20日現在)

順位選手名チーム名国籍得点試合数
1モハメド・サラーリバプールエジプト2230
2ソン・フンミントッテナム・ホットスパー韓国1729
3ディオゴ・ジョッタリバプールポルトガル1529
3クリスティアーノ・ロナウドマンチェスター・ユナイテッドポルトガル1526
5サディオ・マネリヴァプールセネガル1429
6ハリー・ケイントッテナム・ホットスパーイングランド1231
6イヴァン・トニーブレントフォードイングランド1228

UEFAチャンピオンズリーグ出場権争い(4月20日現在)

順位チーム勝点試合数得失点差
4トッテナム・ホットスパー573218
5アーセナル54318
6マンチェスター・ユナイテッド54334

プレミリーグ順位表

順位チーム勝点試合数得点失点得失点差
1リバプール76322372832261
2マンチェスター・シティ74312353722052
3チェルシー62301884642341
4トッテナム・ホットスパー573118311563818
5アーセナル54311731145378
6マンチェスター・ユナイテッド5433159952484
7ウェストハム・ユナイテッド52331571152439
8ウォルバーハンプトンヴァーハンプトン・ワンダラーズ49321541333285
9レスター・シティ4030117124650-4
10ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオン4032913102937-8
11ブレントフォード3933116164149-8
12サウザンプトン3932912113852-14
13クリスタル・パレス37318131040403
14ニューカッスル・ユナイテッド3732910133655-19
15アストン・ヴィラ3631113174246-4
16リーズ・ユナイテッド333289153868-30
17エバートン283084183352-19
18バーンリー2531413142645-19
19ワトフォード223264223062-32
20ノリッジ・シティ213156212266-44