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古くからプレミアリーグになじみのある人にはリーズ・ユナイテッドは知られた存在である。イングランドでも古豪として知られており、1部リーグ(プレミアリーグになる前)でも3回、FAカップ、リーグアップでも優勝経験がある。ヨーロッパの舞台でも実績を残しており、大分前だが1974-75シーズンにヨーロピアンカップのファイナルに進出している。(この時はバイエルンに敗れている。)2001年のチャンピオンズリーグではセミファイナルまで進出した。

が、ここまでがリーズの絶頂期だった。

経営破綻をきっかけに、降格処分が下り、以後、21世紀のほとんどをリーグ1(イングランドの3部)とチャンピオンシップ(イングランド2部)で過ごすことになった。

リーズのファンはもちろん、中立的なイングランドのサッカーファンは、リーズの復活を待ち望んでいたが、長い間実現することがなかった。要因はさまざまだろうが、突き詰めれば経営陣にも監督にも良き人材に恵まれなかったからだろう。

長い雌伏の期間をへて、いよいよ、よき経営者、監督がそろい、リーズがプレミアリーグに復活する時がやってきた。

今回はそのうち、リーズの監督、マルセロ・ビエルサの戦術に関して、現地イングランドで語られている情報もとに、就任2年でプレミアリーグ復活を果たしたチャンピオンシップ時代の彼の戦術を紹介をしていきたい。

ビエルサは、世界のサッカー界では著名な監督で、あのグアルディオラやポチェティーノ(彼は子供のころにビエルサにスカウトされ、プロデビューした時もビエルサが監督だった)、ディエゴ・シメオネなど、世界でもトップクラスの監督からも尊敬される存在である。

その一方で、El Loco (狂人)という異名をもつ監督でもあり、その選手を極限まで追い込む独特のトレーニングや徹底した対戦相手分析(やりすぎて、リーズにやってきた初年度にフットボールリーグから罰金を科せられたこともある)など、独特なパーソナリティでも知られている。

ビエルサはアルゼンチン人で、元々はアルゼンチンのクラブ、ニューウェルズ・オールドボーイの監督時代にその名を知られるようになった。その後、さまざまなクラブを渡り歩くが、ラ・リーガのアスレチック・ビルバオ、フランス リーグ1のリール、マルセイユなどのクラブの監督を歴任している。

それでは彼の具体的な戦術についてみていこう。

選手

ビエルサは、4-1-4-1のフォーメーションを基本としている。下図が19/20シーズンのリーズの基本的なフォーメーションである。

キコ・カシージャ[ Kiko Casilla]がゴールキーパーで、ブライトンからのローン選手であるベン・ホワイト[Ben White](ホワイトはすでにブライトンにローンバックされている)とベテランのリアム・クーパー[Liam Cooper]の2枚がセンターバック、フルバックは攻撃的な選手を並べており、左がスチュワート・ダラス[Stuart Dallas]、右がルーク・エイリング[Luke Ayling]で、これらでディフェンス全体を構成していた。

中盤の底は、カルビン・フィリップス[Kalvin Philips]、彼の前2枚が、ボーランド出身のマテウシュ・クリヒ [Mateusz Klich]とスペイン人のベテラン、パブロ・エルナンデス[Pablo Hernández]、この3人で中盤を構成し、ウィンガーとしてエルデル・コスタ[Helder Costa]とマンチェスター・シティからのローンプレイヤーのジャック・ハリソン[Jack Harrison]が位置していた。

フォワードは、パトリック・バンフォード[Patrick Bamford]がローンストライカーとしてプレイしていた。

選手のラインナップは、20/21シーズンになってもキーパーとローンバックしたベン・ホワイト以外は、概ね変わらずプレミアリーグでプレイしている。

ディフェンス

ビエルサはアグレッシブなプレッシングを好むことで知られている。このようなスタイルはチャンピンシップでは比較的珍しく、それは数字にもよく表れている。

19/20シーズンのPPDA(注1)を見ると、1試合あたり5.86で、チャンピオンシップの中で最低で、かおかつリーグ平均の9.22と大きな差をつけている。一試合当たりの平均被ゴール数は、0.83で1点以下、総被ゴール数もリーグ最低レベルの34ゴールだった。ディフェンス時の1対1での勝率も72.5%で、これはチャンピンシップの中で2番目によい数字になっている。

(注1)PPDAとは、Passed allowed per Defensive Actionの略で、相手陣内で許したパス本数と味方の守備アクション回数で割ったもの。この数値が低い場合は、プレスが良く効いており、相手に自陣で自由にパス回しをさせていないことになる。

アグレッシブなプレッシングを実行する時、センターバックからストライカーまで連携して動くことになる。そのためには、選手がプレスをかけようとするとき、相手方との距離を近く保つことが重要である。リーズの場合、マンマーキングとプレスを組み合わせて、相手方がボールを持った時、パスコースがない状態をつくり、自分たちがボールを奪っていくか、相手方がボールを大きく蹴りだすしかないようにしている。相手方にボールを大きく蹴りださせることにも理由があって、センターバックのベン・ホワイトやリアム・クーパーは空中戦に強く、ボールコントロールにも長けているため、結果ボールを奪える確率が高いのだ。

アタッキング

ビエルサの代名詞といえるのが、3-3-1-3フォーメーションで、これは相手チームにプレスをかけ、ボールを奪った際に守備から攻撃へに移行する時に使われるフォーメーションである。リーズの守備時のフォーメーションは4-1-4-1であり、ここからいくつかの段階を経て3-3-1-3への移行していく。段階ごと見ていこう。

ビエルサは、攻撃に幅を持たせるためにフルバックを積極的に前にもっていく。最初の段階ではフルバックは、1歩前に移行し中盤の選手と並ぶことになる。(この場合は、カルビン・フィリップスのあたりにでてくる。)フルバックが前に出ることで、相手ディフェンスラインを崩すようなウィンガーへのパスが供給できるようになる。これらフルバックにはスピードがあること、ボールを持てることが求められる。相手のカウンターになった時、フルバックが前に出たスペースが狙われることがある。リーズの場合、その対処をするために、CBのベン・ホワイトとリアム・クーパーの2人が大きく横に広がってケアをしていた。2人の間の大きく空いたスペースに、ディフェンスにも強い中盤のカルビン・フィリップスが収まって、3バックのような形になる。※前提としてこのような動きは、リーズがディフェンダーからビルドアップする時に行われ、リーズがカウンタを仕掛けるときの動きとは異なる。

次に、中盤4枚の真ん中2枚のうち1枚が、前に動くことでより攻撃的な位置に立つ。通常、この位置にはパブロ・エルナンデスとマテウシュ・クリヒの2人が収まっており、どちらかが前に移動して、攻撃時の前線と中盤の中間的な位置に立つことになる。彼の役割は、ボックス内へのキラーパスの供給や相手を抜いてのドリブルなど、チャンスを生み出すことにある。いわゆるエンガンチェ(Enganche)的な役割だが、ビエルサのサッカーではこのエンガンチェが、最終的な局面でどこにバスを出して、誰が受けてになるかを判断するなど重要な役割を果たす。

19/20シーズンではジャック・ハリソンとエルデル・コスタの2人がウィンガーとして攻撃時に十分な幅を持たせ、幅広いパスコースを作っていたが、攻撃の最終局面になると、2人はボックス内に侵入していくことで、ターゲットマンのバンフォードにパスを出したり、みずからシュートを打っていく。こういった動きをするため、昨シーズン、ジャック・ハリソンが6ゴール、8アシスト、エルデル・コスタが5ゴール、4アシストなどの数字を記録することになった。

このようにして、3-3-1-3フォーメーションが完成していく。改めて振り返ると、

1.フルバックが1歩前にでる。※前線にパスを供給する。

2.センターバックが広がって、フルバックが上がったことによるスペースをケアしつつ、空いた真ん中にカルビン・フィリップが収まる。

3.中盤2枚のうち1枚が一歩前にでる。※前にでた1枚が最終局面を演出する。

4.ウィンガーがボックス内に侵入しバンフォード含めた3枚でフィニッシュを狙う。

のような過程をへて、3-3-1-3に至っていく。

ビエルサはショートパスを好むため、ゴールキーパー含めディフェンスからダイヤモンドの形をつくりパスを回していくことになる。最初はキーパーとCB2枚とカルビン・フィリップスで、その次に中盤2枚(前述のように上下に配置)とフルバック2枚で、最後に前にでている中盤の選手とウィンガーとFWで、大きく3つのダイヤモンドで構成され、スムーズなパス回しを実現していく。こういったパスコースを作っていきながら前述のように選手が動いていく。

ビエルサはクライフ的な思想の持主で、短く、素早いパス回しとハイプレス、ボール保持を原則としているが、ロングボールを活用するなどフィジカルが重視されるチャンピオンシップへの適用も見られる。かれの攻撃的なサッカーやプレッシング、戦術的な柔軟性などは今までのチャンピオンシップではみられなかったものだった。この精緻な思想をもった「狂人監督」がプレミアリーグでどのような活躍を見せるのか。今シーズンの最注目ポイントの1つとなるだろう。