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昨季当初の降格候補から、今シーズンの最大のサプライズの一つとなったシェフィールドユナイテッドの躍進。プレミアリーグに昇格してからも、目立った選手補強はせずに、チャンピオンシップでプレイした選手たちで構成されていたチームへの期待は低かったが、前評判を覆して、ユニークなプレイスタイルと絶妙な選手間の融合によって、昨季、昇格初年度を9位という好成績で終えることができた。一時はチャンピオンズリーグへの出場権も手に届く範囲にすら位置しており、大健闘のシーズンといっても良いだろう。

彼らをフットボールスタイルを象徴するのが、オーバーラップするセンターバック、オーバーラッピングセンターバック(overlapping center-backs)とウィングの位置をとるウィングバック、中盤にまで下がるフォワードの全体的な連携戦術にある。

シェフィールドユナイテッドのフォーメーション

3人のセンターバックと2人のウィングバック、3人の中盤(オリバー・ノーウッド[Oliver Norwood]が一番深いポジションをとる)の構成が基本である。シェフィールド ユナイテッドの監督であるクリス・ワイルダー(Chris Wilder)はプレミア参戦に際し、チャンピオンシップ時代から中盤の形を変えて、ジョン・フレック[John Fleck]とジョン・ランドストラム[John Lundstram]を前に配置し、いわゆるボックストゥボックス(box-to-box)の役割を与える逆三角形の中盤に変更した。3人の中盤は、ウィングバックとオーバーラップをするセンターバックをサポートすることになる。2人のフォワードは、比較的レギュラーが固定されているチームの中でも競争が激しいポジションであり、シャープ[Sharp]、ムセ[Mousset]、マクゴールドリック[McGoldrick]、マクバーニー[McBurnie]の4名がそれぞれ一定の時間を19/20シーズンはプレイすることになった。

シーズン終盤になると、ルーク・フリーマン[Luke Freeman]や1月の移籍で加入したベルゲ[Berge]などが、中盤のランドストラム[Lundstram]やフレック[Fleck]などとローテーションされることも多くなったが、システムは3-5-2でほとんど変わることがなく、誰がプレイしてもシーズンを通して安定したプレイを見せることとなった。

シェフィールドユナイテッド19/20シーズン基本フォーメーション

シェフィールドユナイテッドのビルドアップ時の動き

ボール保持時は、3-5-2のシステムで、オコネル[O'Connell]とバシャム[Basham]の2人の左右のセンターバックのうち、一人が横に大きく広がり、ウィングバックが前のポジションをとる。敵方がワントップであった場合、センターバックのうち2人が残り、中盤の底のノーウッド[Norwood]が彼らのすぐ前に位置して、守りを固める。この辺は試合や相手チームのやり方によって変わる部分でもある。もし相手方がフォワードが2人でやってきたり、インテンシティの高いサッカーをしてきた場合、ノーウッドがバックラインに下がって、バシャムやオコネルのカバーをして、攻撃の起点にもなる。場合によっては、他の中盤の2人が中盤から下がって、3バックをサポートすることもある。

シェフィールドユナイテッドは、攻撃もボール奪取も、中盤の2人、フレックかランドストラムを通じて、サイドで行われることが多い。練度の高い動きで、サイドに数的優位をつくり、サイドや相手選手間のスペースをうまくつかって、敵ゴール前に迫るのが彼らの基本的な攻撃パターンである。

下の図でウィングからの攻撃パターンを見てみよう。

ランドストラムが相手方のラインの間に位置じ、イーガン[Egan]のからのパスをうける。そのパスをタッチライン側にいるオコネルに預けている。パスをうけたオコネルはオコネルやフレックのサポートを受けながら、前進することが可能になる。この時、シェフィールドユナイテッドは3対2の数的優位を確保して、ワンツーや「第三の動き」などのオプションももつことができている。

スティーヴンスやバルドックがサイドでボールを持った時は、センターバックの一人が前にでて、スティーヴンスやバルドックなどのウィングバックをオーバラップしていく。同時に、ウィングバックも、上がっていき、相手方の空きスペースでプレイをする。中盤の選手も距離を詰めていき、パスのオプションを提供していく。この動きで、相手方のフルバックが孤立して、数的不利に追い込まれることになる。仮に相手中盤がサポートに来たとしても、ウィングバックや状況によってはセンターバック、フォワードの2人がかかわっていき、ボールを持っている選手に多数のオプションを提供する。

こちらも下の図で確認しよう。

オコネルがサイドに、スティーヴンスが相手方の間に位置している。Fleckは少し下がり目である。マクゴールドリック[McGloldrick]が再度に寄せてきており、4人のシェフィールドユナイテッドのプレイヤーが1つのサイドに集まっていることがわかる。結果この位置で、ペースを握り、パスコンビネーションを駆使し、相手方ディフェンスを崩していく。

シェフィールドユナイテッドの攻撃のパターン

上記の通り、シェフィールドユナイテッドは、サイドで数的有利な状況をつくり、攻撃の起点を作っている。その目的は、ボールを敵方の背後(少なくとも、フルバックの背後)にもっていくことにある。

それを実現するにあたって、クリス・ワイルダーは3つのパターンを用意している。

第1に、サイドに数的優位を作り、ワンツーや第三の動きなどでディフェンスの背後をつくやり方。次に、オーバーラッピングセンターバック(overlapping center-backs)が幅を作り、ディフェンスの裏に入り込める深さを作る。最後に、1つのサイドからもう一方へのスイッチプレイで、もし片方のサイドに数的優位が作れていたら、もっとも効率的なやり方でもある。

3つ目のオプションを見てみよう。このようなフルバックとセンターバックの間に入るような動きのフォワードを防ぐのは難しい。下のイメージでは、それを実際のシーンで示している。マクゴールドリックが2人のディフェンスの裏に入り、低めのクロスを上げ、カバーに入っていたランドストラムが決めたシーンである。ここでは、ワイルダーによる別の重要な原則を見て取れる。「中盤とウィングバックは、積極的にペナルティエリアに入っていく、特にファーポストを目指して」

図のようにFleckが相手方のセンターバックの間のスペースに入り、ムセ[Musset]はファーにいるセンターバックとフルバックの注意をひいており、結果、ランドストラムが完全に空いた形になっている。ミッドフィールダーやウィングバックは、このようなランニングで攻撃をサポートしている。もし左サイドで数的優位が起こった場合、逆サイドにいるウィングバックであるBaldockがクロスの時に、ファーポストに走りこんでいるだろう。同じサイドのセンターバックであるバシャムが同様な動きをすることもある。バシャムは、身長187.96cmでゴール前への参加は当然の帰結でもある。2人のフォワードは、通常はファーポストに位置している。フォワードは身長が高い選手が多く、シェフィールドユナイテッドは、一昨年のチャンピオンシップで、もっともゴール前のプレイに長けていたチームであり、当然プレミアでもクロスへの依存度が高くなる。

攻撃のパターンの1つ目と2つ目を考えてみよう。繰り返しになるがシェフィールドユナイテッドは、サイドからの攻撃を志向するチームである。

センターバックの両サイド、バシャムとオコネルが攻撃参加するのはいくつかの理由がある。1つは、ファイナルサードでのセンターバックによる攻撃参加が数的優位をつくるからである。

2つ目の理由はセンターバックが攻撃時に敵方のディフェンスの空きスペースを見つけ、そこに走りこむことができるから。バシャムもオコネルもドリブルに優れており、敵のボジショニングの穴をつくことができる。下の図のようにわかるように、バシャムがギャップをみつけそこに入り込もうとしている。そうした場合、右サイドに数的優位をつくることもできる。

第3にこういったランニングはとても効率的でもある。たいてい2人のシェフィールドユナイテッドのミッドフィールダーとウィングバックがいる。センターバックが第三のプレイヤーとなり、相手方ディフェンダーのブラインドサイドに走りこむ。そうなると、攻撃に深さが生まれ、ゴールに近づくことができる。こういった動きはディフェンダーには追跡しづらい。

最後にポイントになるのは両サイドセンターバックの高さ(二人とも約188cm)で、二人がペナルティエリアにいることで、クロスの際に重要にオプションを提供することになる。

次にシェフィールドユナイテッドがいかに攻撃する方向をスイッチさせているか見てみよう。ノーウッドは、チームの中でもっともうまく広い範囲で左右にパスを出し分けられるプレイヤーである。下記の写真では、シェフィールドは右サイドでバシャムとバルドックと相手側1人で、数的優位をもっている。同時にスティーブンスは4人の選手に囲まれている。ベルグが少し上がってきており、膜バーニーも同様にアケ[Ake]をひきつけながら、下がってきていることで、その裏側に走りこめるスペースを作っている。これらがシェフィールドユナイテッドの攻撃時における原則でもある。

シェフィールドユナイテッドのディフェンスの形

シェフィールドユナイテッドのディフェンス力は、今シーズンの躍進の重要なポイントである。

前述のようにシェフィールドユナイテッドは、オーバーラッピングセンターバック(Overlapping center-backs)を採用している。この手法は攻撃時には魅力的なものに見えるが、一方でハイリスクな手法のようにも思える。もしボールが失われたらその切り替わりの時に大きなスペースを相手に与えることになるからだ。彼らは攻撃時に数多くのプレイヤーを参加させるし、しかも一つのサイドに集中させているにもかかわらず、そのことが相手チームのメリットになっていないのである。下記で確認できるように、もし相手方のチームがワントップでプレイすると、数名のシェフィールドのディフェンダーと対峙することになりフォワードは孤立する。もし、両サイドのどちらからのディフェンダーが(この場合は、オコネルが)前に上がった場合、ノーウッドがその空いたスペースを埋めることになる。逆サイドのディフェンダー(この場合は、右サイド)はイーガンと一緒にその場にとどまるため、3対1の状況を保つことができている。従って、オーバーラッピングセンターバック(Overlapping center-backs)によって、隙をみせているようで彼らはとても攻守のバランスが取れているのである。

相手方がワントップの場合は、左右両サイドとも頻繁に攻撃に参加することになる。このケースの場合、ディフェンスラインにとどまっているバシャムが、チームがボールを奪って攻守の切り替えが起こった時、逆サイドから攻撃をサポートすることになる。

ボールを持っているサイドに多数のプレイヤーがいるため、ボールを奪われた際にカウンターアタックをふせぐことがすばやくできる。シェフィールドユナイテッドは、攻撃しているサイドに、3人から多いとき5人もの選手を集中させているため、ポゼッションの移行が起こった時にもすばやく相手方にプレスをかけることができる。結果、相手側のカウンターアタックをその最初の段階で止めることができるわけだ。

もし相手チームがプレスをくぐり抜けたらどうなるだろう?その場合、チーム全体が下がり、ブロックを形成することになる。シェフィールドユナイテッドは、下にあるように守備時には5-3-2をつかっている。フォワード2人が最初のディフェンスラインとなり、3人のミッドフィルダーがディフェンダーのバックラインの前に立ち、ウィングバックがディフェンスラインに戻り、フルバックとして3人とディフェンダーとともに最終ラインを形成する。フルバックとなったウィングバックは、相手側のフルバックかウイングのどちらかタッチラインに近いほうを対処することになる。(この場合だとシティはウィングを採用しており、バルドックはベルナルド・シルバに対応している)

このケースのようにローブロックを形成している場合は、左右のミッドフィルダーは、ハーフスペースにいる選手をマークしている。ボールがワイドのプレイヤーに回った時、彼らはウィングバックをサポートして、2対1の状況を作り出す。中盤のブロックでは、左右のセンターバックがハーフスペースにいる選手にマークするためにディフェンスラインから飛び出すこともある。対応して、他のディフェンダーが開いたスペースを埋めていく。

5人のディフェンダーと3人のミッドフィルダーがペナルティエリアに入ることで、相手側はペナルティエリアで数的優位をつくることができなくなっている。その上すべてのディフェンダーが長身で空中戦に強いため、クロスが来ても、落ち着いて跳ね返すことができる。

プレスに関しては、すべての選手が激しく粘り強い。

前述のように、センターバックは、特にデイフェンスラインの前のハーフスペースでパスカットをしてくる。ミッドフィルダーは、自分たちの立ち位置やマークする相手に関して、柔軟な対応をしてくる。ノーウッドは、押し上げてフォワードを助けてくるし、状況に応じて2人の左右のミッドフィルダーのカバーも行っている。ミッドフィルダーは、自ウィングバックが相手のワイドプレイヤーをマークすることを助ける。その場合の他2人のミッドフィルダー(ノーウッドとボールがあるサイドと逆側のミッドフィルダーが)真ん中をカバーする。フォワードは、相手方のディフェンダーをマークするが、もし相手方がうまく押し上げてきたら、マークを中盤の選手に変更する。

下のイメージでは、シェフィールドユナイテッドの典型的なディフェンスの形を表している。フレックが相手のフルバックをマークしており、Stevensがワイドプレイヤーをマークし、オコネルがディフェンスラインから飛び出し、目の前の選手をマークしている。合わせてフォワードは、相手ディフェンダーとディフェンシブミッドフィルダーをマークしている。他の2人のミッドフィルダー(ノーウッドとランドストラム)が中央をカバーしている。

スタミナとアグレッシブさ、それらのが融合がシェフィールドユナイテッドをプレミアリーグにおけるディフェンス面でベストなチームの一つにしている。

昨シーズン、シェフィールドユナイテッドは2006/07シーズン以来のプレミアリーグを過ごした。最終的には9位となったが、シーズン後半までヨーロッパリーグどころかチャンピオンズリーグの可能性を残すような大健闘のシーズンであった。おそらくすぐに降格するようなこともないだろう。クリス・ワイルダーの戦術や独特のシステムは来シーズンへの期待も十分に持たせるものであった。来シーズンに向けて成長の余地も感じさえ、来期以降、ヨーロッパでの活躍の決して夢でないだろうし、開幕を待っているニュートラルなフットボールファンの心を来シーズンもつかんでいくだろう。