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イングランドプレミアリーグ、トッテナムホットスパーズが、おなじくプレミアリーグのウォルバーハンプトン ワンダラーズからアイルランド代表のディフェンダー、マット・ドハーティを獲得したことを正式に発表した。移籍金は1,470万ポンド。契約期間は4年となっている。

ドハーティーは、アイルランドのボヘミアンズから2010年にウルブスに移籍し、ここ2シーズンのウルブスの躍進を支えた選手の1人であった。

この比較的「地味目」な選手の獲得に関して、TwitterなどSNSでのファンの声の中には、「もっと期待がもてる選手がいい」という声もささやかれているようだが、獲得が正式に決まる前からイングランドの各紙がこの移籍を取り上げており、「よい買い物だ」というような基本的にポジティブな評価が目立つ。

日本では比較的無名なこの選手がなぜ「よい買い物」だといえるのだろうか。複数の記事からその理由を確認してみよう。

サイドプレイヤーとしての基本スキル

プレミアリーグでの過去2シーズンでみると、右サイドでドハーティよりも多くのチャンスをつくっているのは、リバプールのアレクサンダー=アーノルドのみである。また、左サイドでもプレイが可能である。

サイドの選手の中では群を抜いた攻撃力、得点力

28歳のドハーティーは、昨シーズン50試合に出場したが、その中でディフェンダーとしてはもちろん、積極的に前にでることで攻撃でも高い貢献を示し、Europa Leagueの試合も含め7ゴールも上げている。その積極性を示す数字の一つが、xG(期待ゴール数)である。プレミアリーグで彼は4ゴールを上げているが、xGでみると約7となっている。※つまり、7点あげてもおかしくない、位置にいて、プレーもしていたと。この数字は、昨シーズン、ブレイクしたアダマ・トラオレと比較しても2倍もの数字になっている。

ディフェンダーとは思えない積極的なペナルティーボックスへの飛び込みも特筆すべきで、彼は、過去2シーズン、相手エリアでのボールタッチ数が200を超えており、ペナルティボックスでのタッチ数でみると、ケビン・デブライネをも上回っている。

敵のディフェンスラインの隙を狙っての裏への飛び出しにも優れているが、もちろんいつもボールが来るわけではない、そのたびにしっかりディフェンスにも戻る動きをしており、まるでフォワードのように激しくアップダウンを繰り返している。

ボールの受け手として優れており、チームでもトップクラスの空中戦の勝率を誇っている。

サイドの選手の中では異質の動き

リバプールのアレクサンダー=アーノルドやロバートソン等は、その正確なクロスによって攻撃に貢献しているが、ドハーティーはクロスではなく、アンダーラップでその攻撃力を生かしている。彼は一般的なウィングバックやフルバックのようにサイドでチャンスを作るのではなく、サイドから侵入してゴールを挙げる選手なのだ。結果、数多くの得点機会にかかわることになり、2019年12月のマンチェスターシティ戦のような劇的なゴールを生み出すことにもなった。

ウルブスがプレミアに復帰して以降で、ドハーティーがシュートをした位置をみてみると、ゴールエリアの中で、簡単に流し込んでいるようなゴールが目立つ。つまり彼はディフェンダーにもかかわらず、ゴールのにおいがすると、いい位置にいつもいるわけだ。

スパーズでの彼の役割

モウリーニョは4バックを好んでつかっているが、昨シーズンの試合を見てみると、4バックのラインナップでありながら、実際には右サイドバックのオーリエを前に配置して、ウィングバックのような攻撃参加をさせていた。

結果、右サイドが攻撃の起点になることが多かったが、期待するほどの得点を挙げることもなかった。オーリエは質の高いクロスや前へのスピードなど特徴はあるが、実際どれだけ効果的だったのかは議論の余地がある。

オーリエは、昨シーズン、プレミアリーグで4番目に多いクロスを上げている。(それより多いのはリバプールの両サイドとエバートンのリュカ・ディニュである)その一方で、ボックス内へのクロスの精度でいると、ディフェンダーの中で最低の成功率になっている。

要するにモウリーニョが昨シーズンに始めたシステムにおいて、オーリエは一定の成果は出したが十分ではなく、その上、彼の代役も昨年のトリッピアーや昨シーズン後のウォーカー=ピータースの移籍で十分に確保できなくなったことも踏まえ、そのレベルアップを期待してのドハーティーの獲得であったわけだ。

今まで見てきたようなドハーティーのサイドの選手としての得点機会の創出、オフザボールの飛び出しと激しいアップダウン、ボックス内での空中戦の強さ、その決定力がモウリーニョのおめがねにかなったのだろう。彼よりもうまい選手はいるが、サイドのディフェンダーの中で、、これほどに決定的にゲームに影響を与えることができる選手はいないだろう。

地味なところで、スパーズにとって彼はhomegrownのプレイヤーとして登録可能なところも見逃せないメリットでであった。すでに17名の外国籍のプレイヤーを抱えており、以前はスパーズはヨーロッパの舞台でこの制限に苦慮することが多く、ワニャマやフォイスをチャンピオンズリーグから外さなければいけない状況に陥ったこともあった。

以上を踏まえると、1470万ポンドのビジネスは、コロナでバブルが崩壊しているフットボールビジネスの中でもよいビジネスだったといえるのだろう。

トッテナムの移籍情報