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20/21シーズン前半戦の大一番、マンチェスターシティとの試合を直前に控え、ジョゼ・モウリーニョがスパーズの監督に就任してちょうど一年を迎えようとしている。

ファンからも選手からも愛されていたポチェティーノが解任されてから1日も経たず発表されたモウリーニョの監督就任。その後の出来事に関しては、現在amazonプライムで配信されているドキュメンタリー、"All or Nothing"が詳しいが、それ以前の直近のモウリーニョの監督としての成績や守備的といわれるそのサッカースタイルなど、当初はファンの間でも不安や疑問の声も少なくなかった。昨シーズン最終盤にパフォーマンスこそ向上したが、惨敗を喫したチャンピオンズリーグでのライプツィヒ戦やプレミアリーグでのシェフィールドユナイテッド戦、シーズン後半の重要な時期で、降格争いをしていたボーンマスと引き分けるなど、ファンの不安や疑問を払拭することなく昨シーズンを終えることになった。

20/21シーズン初戦のエバートン戦も0-1で敗れ、モウリーニョが"怠惰であった"と選手を非難するなど、波乱を予感させる幕開けでもあった。

ところが、その後は負け知らずで、シティ戦を間近に控えた20年11月19日現在、スパースは、1位のレスターと1ポイント差の2位に位置し、シーズン序盤とはいえ、久々の1位を伺うようになり、昨シーズンの惨敗劇や今シーズン初戦の「怠惰」な試合結果も全く過去のものとなっており、ファンの中でもモウリーニョへの評価が大きく変わり始めている。

昨シーズン、今シーズンを合算した「直近1年間の成績」でみると、トッテナムは、勝ち点でリバプールの82ポイント、マンチェスターシティの68ポイントに続いて、62ポイントの3位に位置している。つまりモウリーニョらしくきっちり結果を出し始めてきたわけだ。

今回は、トッテナム監督就任から、今日に至るまでのモウリーニョの足跡を、The Atheticの記事を参考に、彼が選手たちにもたらした精神面での変化、選手との関係性、数字面でみるチームのパフォーマンスの変化、サッカースタイル、リクルート戦略、ファンからの評価など、さまざまな軸で振り返ってみたい。

モウリーニョ監督が起こした選手へのメンタリティーの変化

スパーズの選手は勝利への貪欲さにかけているのではないか、というのは彼らの精神面でのひ弱さを指摘する際によく言われるところである。モウリーニョ自身も就任当初の改善点にそこを上げていて、必要な時は、「醜く勝つ」こと、「くそ野郎」になっても勝たなければいけないことなどを選手に語っていた。

こういったことは定量的な評価が難しいところではあるが、たとえば、対戦相手の攻撃をいわゆる「戦術的ファール」で止めた割合を見てみると、トッテナムは10.8%(1位はサウザンプトンの11.1%)で、モウリーニョがしてからの昨シーズンの7.8%から劇的な上昇となっている。この辺は、ずるがしこく勝つための1つの指標としては参考になるだろう。

モウリーニョ監督と選手との関係性

レアル・マドリード、2回目のシェルシー、マンチェスターユナイテッドでの監督時代、モウリーニョと選手との関係悪化を報じられることが多かった。この点はスパーズの関係者、ファンの中でも特に注意深く見られている領域でもあったが、現時点でみると、少なくとも選手からは好意的に受け入れられているようだ。

それを象徴的に表しているのがエンドンベレとの関係改善である。エンドンベレの度重なるケガによる低調なファーマンスもあって、6月ごろには2人の関係は破綻しているとも報じられていたが、そこから相互理解も深まり、関係性は劇的に改善し、それに伴ってエンドンベレ自身のパフォーマンスも大きな改善が見られ、今シーズンはハリー・ケインやソン・フンミンとともに欠かせない選手の1人になった。エンドンベレ自身も気持ちよくプレイができていると報じられている。

一方で、その真逆にいる形で現在懸念されているのがデレ・アリとの関係である。まさに6月ごろのエンドンベレのような状態ともいわれているが、The Athleticによれば、人間関係として2人がもめていることはないようで、エンドンベレと同じ道とたどることが期待されている。ただ、一方で目下のモウリーニョのプランの中にアリは入っていないとも言われている。

先日のヨーロッパリーグのロイヤル・アントワープ戦で、アリを含む複数の「当確線上」の選手が先発でプレーしたが、チームとして低調なパフォーマンスに終始し、ヨーロッパリーグで初黒星を喫したが、試合後モウリーニョは、「これで、今後、選手を選ぶのに苦労しないだろう」、「なぜ一部の選手がプレイしないかを私に聞く必要がなくなっただろう?」と、ある意味モウリーニョらしいコメントを残した。

このコメントに対しての選手側の反応は明確に伝わってはこないが、昨年12月や今年1月にみられたエンドンベレに対する批判に関しては、不満を持った選手もいたという。

一部でこういった、いつものモウリーニョらしいリスクをはらみつつではあるが、概ね、モウリーニョや彼の手法は選手に受け入れられているようで、特にロックダウン期間に選手のメンタルを保ちづづけるために行ったことの評価がチーム内でも高いという。

その結果か、今シーズン、ハリー・ケインとソン・ヒュンミンは絶好調で新しいレベルにの選手になったようだし、長く低調だったエリック・ダイヤーも復活し、放出がうわさされていたセルジ・オーリエもパフォーマンスが大幅に改善している。

モウリーニョは、しばしば若手選手を育てることができないと批判されるが、スパースにおいては、(判断するにはまだ早いが)例外となるかもしれない。

昨シーズン、ケガで離脱するまで、21歳のジャフェット・タンガンガをレギュラーとして使いつづけ、オリバー・スキップにも多くのプレイ時間を与えた。20歳のスキップは現在、ローンでノリッチでプレイしてるが、モウリーニョの期待も高いようで、今シーズンも手元に置いておきたかったらしいが、プレイ時間がほしかったスキップの意向を尊重したという。

それ以外にも、左サイドバックの18歳のデニス・サーキンについての期待を述べ、ファーストチームに帯同させるなど、結果は出ているわけではないが、若手の活用に関して、前向きに取り組んでいるように見える。

モウリーニョが監督になってからのチームパフォーマンス

前述したように、直近1年間で見た時にスパースは、34ゲームで62ポイントを獲得しており、全体で3位に位置している。モウリーニョが監督になってからの平均獲得ポイントは、1.82であり、38試合(1シーズンの試合数)でみると69ポイントで、やはり3位に位置ずるには十分なポイントであり、昨シーズン、ケガでケインやソンが長期離脱していたことを考えると十分に評価に値する結果だろう。

モウリーニョが監督になってからの1年間34試合の勝ち点62に対して、その直前のポチェティーノの34試合の勝ち点は49と大きな差がある。(ただしポチェティーノ政権下での平均獲得ポイントは、1.89と現在のモウリーニョと比較して、若干よい数字にはなっている。)

xG(期待得点値)でみてみると、直近の良好なパフォーマンスがなぜなのかがよくわかり、今後に期待をもたせる数字になっている。

ペナルティを除いたxGの値は、プレミアリーグで6位に位置している。これはポチェティーノの在籍期間と同じ順位ではあるが、ポチェティーノの場合、最後の34試合で見てみると12位であり、急激にランクダウンしてしまっている。これは、昨シーズンで降格したボーンマスやバーンリー、エバートンなどと同様の数字である。

xGからxGA(期待被ゴール値)を引いた値で検証してみると、モウリーニョが監督になってからは、スパーズは7位で+0.22。ポチェティーノの最後の34試合だと10位で値は0である。ただし、ポチェティーノの5年半の在籍期間全体でみると、6位の0.36となっている。このxG-xGAを今シーズンに絞ってみると、スパーズはトップの0.92である。

こうしてみると、今後も安定した試合運びが期待できるだろう。

実際、ここ数年間のスパーズのxG-xGAの推移を追ってみると、+の差が大きくなるとよいパフォーマンスを見せており、-の差が多くなると、その逆の結果となっている。典型的なのが上記でのべた解任直前のポチェティーノの数字と今年に入ってのモウリーニョの数字である。

モウリーニョ監督のプレイスタイル

一般的に思われているモウリーニョのプレイスタイルは、守備的で、積極的に攻めるのではなく、相手に応じたサッカーをするというものだろう。この辺が攻撃的なプレッシングサッカーをしていたポチェティーノと一線を画すところであり、一部のファンからも懸念されていた点でもある。

しかしながら、6-1で勝利した先日のマンチェスターユナイテッド戦でもみられたように、今シーズンはステレオタイプなモウリーニョスタイルだけではなく、ポゼッションしていないときにもアグレッシブなプレイスタイルも展開している。

ただ、数字でそのプレイスタイルを検証してみると、プレッシングの強度でいえば、まだまだポチェティーノ時代のほうが強かったようだ。

high turnoverという指標がある。相手方のアタッキングサードでポゼッションを取り戻した数をいうが、今シーズンのスパーズは13位(リバプールとマンチェスターシティがトップ2)である一方で、ポチェティーノが監督をしていた時は5位であった。

PPDA(そのチームがハイプレスをしていたと評価される指標で数字が少ないほどハイプレスをしていたと見なされる)で見てみると、ポチェティーノの時は9.54で2位、モウリーニョになったらのその数字は12.16で全体で9位である。

相手にポゼッションされた時に、相手チームがどれくらい前進したかをみると、ポチェティーノ時代はトップの20.8mでとどめていたが、現在は21.8mの15位になっている。

似た数字で、相手チームのの平均ポゼッション時間をみるとポチェティーノの時は、全体の3位で17.8秒だが、モウリーニョの場合は12位の23.2秒である。

攻撃面でも見てみよう。モウリーニョのスパーズのポジション率は平均51.3%、ポチェティーノの時は58.8%になっている。また、全試合におけるファイナルサードでのパスの本数を対戦相手との比較でみると(要はどちらが多くのパスを出しており、重要なエリアで主導権を持てているのかをみると)、ポチェティーノのスパーズは、57.8%で在任期間でみるとプレミアリーグ全体で5番目に良い数字になっている。一方モウリーニョは48.6%で11位だ。ただしこれらの数字は今シーズンでみると51.6%で改善されている。とはいいつつこれらの数字は中堅クラスのクラブと同じくらいのパフォーマンスではある。

概して、ポチェテーノの時と比較して、ダイレクトプレイが減っているようだ。昨シーズンのパスの中でロングパスのシェアは11.7%で、ポチェティーノの時は12%である

さらに見ていくと、攻撃のスピードに関してもモウリーニョになってからダウンしている。攻撃時に秒間何メートル全身しているのかをみると、モウリーニョは1.28m、ポチェティーノは1.47mである。平均のパスの本数は、モウリーニョ:11.79、ポチェティーノ:13.69である。

スパーズは今シーズン、ケインとソンが復活し、彼ら2人を中心に攻撃を組みてることで、以前のようなキレのある攻撃ができるようになってきており、それを象徴する指標の一つが先ほどのxGである。実際トッテナムはリーグで2番目にゴール数が多く、1試合に平均2点を挙げている。

概してモウリーニョは、やはり「モウリーニョらしい」サッカーを展開しつつ、昨シーズンと比較して、チームの組織化には成功したようだ。ケインとソンの攻撃力に頼りつつ、結果ディフェンスは今シーズンのプレミアリーグでもトップレベルになっている。

移籍におけるモウリーニョ監督の役割

トッテナムのチェアマンのダニエル・リービーは、元々移籍での支出に非常に厳しい人として知られているが、モウリーニョへの信頼が非常に強く、今シーズンは積極的な補強が目立つ。

実際に7名を獲得し(うち2名がローン)、総計の移籍金は6,000万ポンドに上る。獲得した選手のポジションもモウリーニョが獲得を望んだポジションであった。結果ここ数年課題と思われつつ、適切に行われなかった選手のオーバーホールが実現した。

今までのところ、ホイビュルクはチームの中でも傑出した活躍をしており、レギロンもよくチームにフィットしているし、ベイルの復帰はチームの雰囲気を上げている。ドハーティやジョー・ハートは元々プレミアリーグで十分な実績を上げている。ヴィニシウスは、ポルトガルで十分な実績を上げており、長年の課題であったハリー・ケインのバックアッパーとして期待されている。ジェドソン・フェルナンデスは印象に残る活躍ができていないが、ローンのため支出面での痛手は少ない。

ファンからみたモウリーニョ監督

The Athleticが行ったスパーズファンへのアンケートによると、

「モウリーニョ招聘は正しかったか?」という質問に対し、86%がポジティブな評価をしている。

「ポチェティーノの解任は正しかったか?」というものに関しても、74.2%が正しい決定であったとしている。

82.4%が、「ポチェティーノの時と比べて、よりトロフィーに近づいている」と感じている。

「モウリーニョは、どれくらいいい仕事をしていると思うか?」という質問に対し、62.4%が良い仕事をしている、31.9%が非常に良い仕事をしていると評価した。

移籍に関しても、95.5%がいい仕事をしたと思っており、モウリーニョ自身に対しても、一年前と比較して、92.5%のサポーターが1年前よりも好ましい人物であるとした。

モウリーニョ監督1年目の総括

基本的にトッテナムでの1面目はモウリーニョにとってポジティブな結果となった。チームを安定させ、さらに今シーズンはチームを強化し、タイトル争いをできる雰囲気を作り上げてきた。

スパーズの監督として就任する前の数シーズンの成績で、「終わった」といわれてきたモウリーニョ。今シーズン最も期待できる監督の一人として復活した彼の後半戦の動きが注目される。

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